広島地方裁判所 昭和63年(行ウ)20号 判決 1993年4月14日
原告
大瀬戸正三
右訴訟代理人弁護士
本田兆司
同
桂秀次郎
被告
広島西郵便局長小川博基
右指定代理人
稲葉一人
外八名
主文
一 被告が原告に対し昭和六一年一二月一八日付けでした懲戒戒告処分を取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和六一年当時、郵政事務官として広島西郵便局(以下「西局」という。)郵便課に所属していた。
2 西局局長である被告は、原告に対し、昭和六一年一二月一八日(以下、特に断らない場合には昭和六一年を意味するものとする。)、懲戒戒告処分(以下「本件処分」という。)を行った。
3 しかし、本件処分は違法である。
4 よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3は争う。
三 抗弁(本件処分の適法性)
1 本件処分
(一) 本件処分の処分事由
本件処分は、以下に述べるように、原告が一〇月二六日及び二七日に無断欠勤したこと、並びに九月二七日に原告の所属長である西局郵便課長杉下幸郎(以下「杉下課長」という。)に対して暴言を浴びせたことを理由とするものである。
(二) 本件処分に至る経緯
(1) 原告は、九月三日にその有する日数の範囲内で時季を同月一三日及び一四日とする年次有給休暇(以下「年休」という。)の請求書を提出したが、杉下課長は右年休請求は一〇月五日から同月二一日までの間に変更した。
しかし、原告は九月二七日午後一時ころ、同課長に対して「この間の年休は、一〇月二六日と二七日にしてくれ。」との申出をし、同課長は「あれは一〇月五日から一〇月二一日までの間に時季変更すると言ったはずだ。」と答え、さらに原告から申出のあった一〇月二六日及び二七日の両日は業務上の支障が予想されるので年休を付与できないかもしれない旨を付け加えた。
(2) その後、午後一時五〇分ころ原告は自席で執務中の同課長のところへ来て、「課長。ふん。」と言い、一〇月二六日及び二七日を時季指定した年休請求書を同課長の机の上に置いた(以下「本件年休請求」という。)。
これに対して同課長は、本件年休請求については業務上の支障が予測されることから、時季変更するかもしれない旨申し向けたところ、原告は同課長に対し、「ちゃんと出せよ。やかましいやい。」と大声で言って暴言を浴びせ、同課長が注意する間もなく立ち去った。
(3) 杉下課長は、原告の本件年休請求について、九月二七日の請求があった時点で業務上の支障が予測されることから付与できる見込みは少ないとの認識を持っていたが、当面は要員事情の推移等を見ることにして年休の付与を種々検討したが、その後も要員事情が好転せず、最終的には原告に本件年休請求にかかる両日に年休を付与すれば事業の正常な運営を妨げる事情があると判断した。
そこで、同課長は、一〇月二〇日午前八時三四分ころ、自席付近において原告に対し、「大瀬戸君、九月二七日に出された一〇月二六日、二七日の年休は業務に支障があるので一一月に時季変更します。」と口頭で通知した(以下「本件時季変更権」という。)ところ、原告は「受けんぞ。何を言うか。」と発言した。
杉下課長は、一〇月二四日午後一時四八分ころ、原告に対して重ねて本件年休は一一月に時季変更する旨通知するとともに、両日の勤務に就くように命じたが、原告は「それは聞くわけにはならんね。」と発言した。
(4) そして、原告は、一〇月二六日は日3勤務(午前八時三〇分から午後四時五三分)に、また、同月二七日は早3勤務(午前六時三〇分から午後二時五三分まで)に指定されていたが、それぞれ出勤することなく所定の勤務を欠いた。
その結果、右両日の西局郵便課の業務に現実の支障が生じた。
なお、原告の欠勤に伴い、西局においては右両日就労電報を発信したほか、一〇月二七日には西局庶務課長である松村達雄らが原告の自宅に赴き、在宅していた原告に対して出勤するように再三促したが、原告はこれを聞き入れず、右両日に欠勤したものである。
(三) 法令の適用
原告の右無断欠勤の事実は国家公務員法九八条一項、九九条及び一〇一条一項に違反し同法八二条各号に、杉下課長に対する九月二七日の暴言の事実は同法九九条に違反し同法八二条一号及び三号に、それぞれ該当する。
よって、被告は、原告に対し、右各法令並びに人事院規則一二―〇及び郵政省職員懲戒処分規程に基づき原告に対する本件処分に及んだものである。
2 西局郵便課の業務運行の概要
(一) 西局の位置付け及び同局郵便課の業務内容
西局は、広島市西区天満町五番一〇号に所在し、広島市西区全域を郵便区とする。昭和六一年当時、西局は人口約一八万人、世帯数約六万五千世帯を受け持ち、一日当たりの平均郵便取扱物数は、引受郵便二万二千通、到着郵便物八万九千通、差立郵便物一万七千通、配達郵便物九万四千通であり、一日当たりの配達郵便物数は中国管内で最も多い部類に属し、枢要な役割を担う大規模郵便局である。
西局郵便課は、利用者から郵便窓口や郵便差出箱を通じて差出される各種郵便物の引受、差立及び到着処理、配達区分、郵便切手類の販売、郵便の利用勧奨等の郵便内務事務全般を所掌している。
(二) 西局郵便課の勤務体制
右業務の遂行のため、西局郵便課は、年間を通じて業務を休止することがない二四時間の交替勤務制をとっている。
そのため職員の勤務の種類は複数であり、別表一のとおり、早出出勤、日勤勤務、中勤勤務、夜勤勤務、一六時間勤務の五種類が複雑に組合わせられている。
また、取扱業務の内容に応じて担務を分担しているが、郵便の取扱物数には波動性があることから、各担務ごとの曜日別の配置人員も異なったものとなっている。
なお、右担務の種類、分担、主な作業内容、勤務の種類及び曜日ごとの要員配置は、別表二のとおりである。
(三) 勤務指定及び担務指定
(1) 勤務指定
右(二)の勤務体制をとっていることから、西局郵便課は、職員の勤務について各職員の各日の勤務の種類等を指定する勤務指定表を作成してその指定を行っている。
すなわち、勤務指定表は個々の職員に対し、四週間を一単位として予めその期間における各日の勤務の種類及びその始業時刻と終業時刻並びに週休日、非番日等を指定し、当該四週間の開始一週間前までに職員に周知することになっており、具体的には別表一に定められている勤務の種類を示す符号(例えば、早1、日3等)を用いて、各日の勤務の種類及び週休、非番等を指定している。
(2) 担務指定
右勤務指定は、職員の各日の勤務の種類等を指定するにすぎず、職員が各勤務日において担当する職務については担務指定表を作成してその指定を行っている。
すなわち、担務指定表は各日ごとに必要とする配置要員数及び職員別の担当可能な担務に合わせて勤務指定によって勤務を指定された各職員別に分担業務を指定するものである。
この担務指定表は勤務の当日に職員に対して口頭で指定すれば足り、法的に作成を義務付けられているものではないが、西局郵便課においては繁雑さを避け、間違いを防止し、職員にとっても事前に担当職務を知り得たほうが都合がよいことから、一週間単位の担務指定表を作成し、当該一週間の開始日の前日に職員に周知している。
ただし、担務指定表は、後記のように職員は担当できる担務が限定されている場合があることから担当可能な職員を確保するため、勤務指定表と並行して作成していた。
また、この担務指定表によって指定される担務は、それぞれの職員が従事する主たる職務を指定するものであり、指定された担務の手空き時間等においては、区分業務を行うものとなっている。
なお、担務の種類は別表二のとおり、「計画」(分担業務も「計画」)、「窓口」(分担業務としては「切手」、「引受」)、「通常」(分担業務としては「区分」、「区分」、「私書箱」、「事故差立」)、特殊(分担業務も「特殊」)、小包(分担業務は「記帳小包」)及び「主事」(分担業務は「総括」)であるが、このうち「計画」は業務運行計画の企画立案及び営業の推進その他の庶務的業務を担当することから固定配置されており、また、「総括」はその職務及び職責からして、課長代理及び主事の役職者、例外的には主任が担当するものであり、一般職員が担当することはない。
更に、西局郵便課における職員の配属後に従事する担務の一般的なローテーションは、新規採用者あるいは郵便経験のない者の配属を受けた場合には、配属から三か月間はまず初歩的な「区分」を担当し、その後、「私書箱」、「記帳小包」、「事故差立」の担務を経験する。そして、「特殊」の担務は習熟を要する担務であり郵便課の業務全般に精通した職員でなければ円滑な業務遂行を確保することができないことから、郵便課に配属後三、四年経ってから担当し、また、「窓口」は「特殊」の担務を一年位経験した後に就くことになっている。
このように、担務は各一般職員がすべての担務を担当できるのではなく、前記のように一般職員が担当しない担務(「計画」及び「総括」)があるほか、その他の担務についても各職員の経験、能力等に応じて担当できる職務が限定されている。
(四) 西局郵便課の人員配置
(1) 最低配置人員
郵政省は、毎年定期的に全国の各郵便局で郵便物数調査を実施し、この調査結果に基づき、さらに取扱い郵便物数の波動性、郵便局の作業実態等をも考慮して、各郵便局郵便関係課ごとの曜日別、時間帯別、担務別に、郵便物を処理するのに必要な配置人員(以下「最低配置人員」という。)を決定している。
この最低配置人員は、それを下回る要員配置となった場合に郵便物を処理するために必要な配置人員を欠き、業務支障発生の蓋然性が生じることになる。
そのため、西局郵便課においては、右最低配置人員を下回らないように勤務指定、担務指定を行い要員配置を行っていた。
なお、西局郵便課の一〇月二〇日当時の最低配置人員は、別表二の要員配置欄記載のとおりである。
(2) 西局郵便課の定員
西局郵便課の定員は、一〇月二〇日当時三二名であったが、これは右の最低配置人員を確保するほか、労働者に定められた週休、非番、年休を付与することが十分に可能であるとの観点のみならず、特別休暇、組合休暇、出張、訓練、欠員等にも対処できるように考慮して決定されたものである(なお、この定員から最低配置人員を差し引いた人員を欠務許容人員といい、別表二に記載のとおりである。)。
また、右当時の現在員も三二名で、その内訳は、課長一名、課長代理一名、主事三名、主任六名、一般職員二一名(国家公務員法六〇条の臨時的任用の職員である臨時補充員一名を含み、このうち担務指定の対象となるのは二九名であった。)であったが、そのほかに午前一一時から午後六時までの六時間パートの非常勤職員一名がいた。
3 西局郵便課における年休の取扱い
(一) 西局郵便課における年休付与の一般的取扱い
(1) 西局郵便課は前記2(二)のように変形勤務体制をとっていることから、年休付与に当たっては次のような一般的取扱いが行われていた。
(2) 年休指定日の要員配置が最低配置人員を上回る場合は、特段の事情がない限り年休を付与するが、年休指定日の要員配置が最低配置人員かそれを下回る場合は、確保の余地があると見込まれるときは代替勤務者の確保を検討し、これが確保できたときは年休を付与し、確保できなかった場合及び確保の余地が全くない場合は、業務の正常な運営を妨げる事情があるものとして時季変更権を行使する。
(3) 右代替勤務者の確保の方法としては一般に、①勤務の差し繰り(他職員の勤務指定及び担務指定を変更して年休付与が可能な人員配置とする。)、②廃休、廃非番(週休日、非番日の職員に休日労働あるいは時間外勤務を命じる。)、③非常勤職員の雇用の三つの方法がある。
しかし、西局郵便課においては、右のうち②の廃休、廃非番は週休者等の犠牲の上に年休権の行使を認めることになるため、突発欠務が発生し、ほかに要員配置を行う方法がない場合にのみ行っており、また、超過勤務手当予算等の関係からも、一般的にこの方法を取ることはない。
また、③の非常勤職員の雇用も職員が相当長期間欠務する場合には例外的に行っているが、予算的な問題があること、一日限りの場合には一日だけ雇用できる者がいないこと、仮に一日だけ雇用できる者がいたとしても本務者(欠務者)に代わって業務を遂行できる者がいないこと等から、年休を付与するために短期間の非常勤職員の雇用はできないのが実情であり、突発的、緊急的な欠務には対応できない方法である。
したがって、年休付与のための代替勤務者の確保は専ら①の勤務の差し繰りの方法によって行われている。
(二) 本件当時における年休請求の方法
西局郵便課における年休請求手続は、主事・主任に年休請求書を提出し、主事・主任の意見を聞いて杉下課長が決裁することになっていたが、実際は職員の大半が直ちに年休請求書を提出することなく、業務の状況を把握しやすい立場にある主任、主事に事前に年休付与の可能性を打診し、年休取得が困難な場合には年休請求書の提出を自発的に控えたり、同請求書を提出した後であれば自ら年休請求を撤回していた。
したがって、実際上西局郵便課では、年休付与が困難な場合でも時季変更権を行使することなく処理されていた。
(三) 勤務指定表作成後の勤務の差し繰りの方法
勤務指定表作成後、勤務指定の変更を行う場合、一般的に一人の週休日を変更する場合でも既に勤務指定の周知を受けて指定された三人から四人の職員の勤務指定を玉突き的に変更する必要がある。
これは、代替勤務者には振替えた週休、非番を指定しなければならないが、勤務体制が複雑で、かつ、年休を請求した職員の担務を担当できる職員が限定される場合があるからである。
しかも、週休日、非番日の変更は、代替日を四週間の当該勤務指定期間を超えて付与できないという制約があることから、右期間の終了に近くなるほど差し繰りに困難が生じる。
したがって、右のようにして勤務の差し繰りを検討しても、週休日、非番日の振替が不可能であったり、被変更者側の事情から担務指定がうまくいかず欠務を生じる場合には、勤務の差し繰りが不可能で年休を付与できない場合もある。
(四) 年休と週休及び非番の関係
(1) 代替勤務者確保に当たり週休日に指定されている者の取扱い
労働基準法上、週休日は使用者の一切の拘束から解放される労働義務のない休日とされ、一律に勤務六日につき一日の割合で与えなければならないことを使用者に義務付けている(三五条一項)。これに対し、年休は一般的な労働義務の存在を前提として個別労働義務を免除する休暇であり、発生要件として一定の勤務実績を充足することが法定され、休暇日数についても毎年累積的に増加するものとされており(三九条)、慰労休暇的性格を有するものである。
このような週休と年休の性格から、週休日は年休に優先し、年休の申請があれば当然に週休者が差し繰りの対象となるのではなく、使用者は特別の事情がない限り、代替者を確保するため週休者を対象とすべきことまで法的に要請されていない。
しかし、西局郵便課においては、他の職員に対し年休を付与するため、便宜、日曜日以外の日が週休日とされている職員に対し勤務の変更を要請することが行われていた。
しかしながら、日曜日が週休日に指定されている職員に対する勤務の差し繰りについては、右と異なり次のように取り扱っていた。
すなわち、一般的に官公庁や民間企業においては日曜日が週休日とされている例が多く、社会のシステムは日曜日を休日としていることから、西局郵便課においても家族とのコミュニケーションを図り、あるいは地域活動への参加のためなど日曜日の週休を望む職員が多く、日曜日の週休が少ないと不満をいう職員もおり、勤務指定表の作成に当たっては、前回の勤務指定時の職員一人ひとりの週休日が何曜日に指定されていたかをチェックしながら、職員に対して一勤務指定期間(四週間)に平等に二回程度の日曜の週休日を確保するような配慮を行っていた。
実際にも本件勤務指定期間を含む三勤務指定期間において全期間に西局郵便課に勤務していた職員一九名(役職者を除き、臨時補充員を含む。)についての平均は、一勤務指定期間当たりに二日以上の日曜日の週休を指定された者は約三分の二の一二名であり、その余の七名のうち六名は三勤務指定期間の平均指定日数が1.7日と、日曜日が週休日に指定された日数の平均はほとんど均衡している。
勤務指定の変更においても同様の配慮がなされ、日曜日に出勤を予定されている職員から年休の請求があった場合、年休請求の理由が社会通念上やむを得ないと認められるような特殊な場合を除いて、日曜日が週休に指定されている職員に対して、週休日を他の曜日に変更して勤務を命じたり要請したりすることは行っていなかった。
(2) 日曜日が非番日の場合
非番日は、定められた所定労働時間を超えないように労働時間の調整をするために設けられたものであるが、職員は非番日も週休日と同様に休みの日であるとの認識を有していたことから、日曜日が非番日に指定されている職員に対しても、日曜日が週休日に指定されている場合と同様に、非番日を他の日に変更して勤務を命じたり勤務を要請したりすることは行っていなかった。
(五) 年休と欠務の発生
(1) 西局郵便課では、職員から年休請求があった場合に最低配置人員を確保することを原則とし、当該職員に年休を付与するために最低配置人員を欠いた勤務、すなわち欠務を生じさせることはなかった。
ただし、結果的には最低配置人員を下回って業務運営した日もあったが、これらはいずれも社会通念上やむを得ない理由が存在し、かつ、突発的な事情があったためである。そのような場合には、職員は、やむをえない理由による欠務はお互い様であるとの認識の下で、共助共援によって業務支障の影響を最小限に食い止めていた。この共助共援は、担務指定表の右上欄にも記載されているが、これは欠務が日常的に発生し共助共援が要請されるという趣旨に出たものではなく、やむをえず臨時的に行われるものであり、要員配置の最終責任者はこの職員間の共助共援をあてにして要員配置の計画を立てることはできないのである。
(2) また、年休請求は時間をもって指定される場合もあるが、最低配置人員は取扱い郵便物の時間単位の波動性をも考慮して算定されたものであり、日単位では最低配置人員を下回るが、時間単位では最低配置人員を下回らない場合が存する。
したがって、時間をもって指定した年休は時間帯によっては業務支障が生じないものとして勤務の差し繰りをすることなくそのまま付与する場合があり、日をもって指定された年休と時間をもって指定された年休とは必然的にその判断の前提となる事情が異なるのである。
特に、時間をもって指定された年休の場合、年休請求者本人が業務支障の無い時間帯を指定することが多いのである。
(3) 年休の利用目的
西局郵便課において、右の最低配置人員を下回って業務を運行し、欠務を生じさせたのは、年休請求者から自発的な利用目的の告知を受け、その目的が例えば家族の急病など社会通念上やむをえない理由の場合に限られていた。
労働者の年休請求に際してその利用目的を問うことは許されないが、右のように、時季変更権を行使しないで敢えて年休を付与することは現実の制度の運用として社会常識に適う妥当なものであって、時季変更権の行使を差し控えるための判断材料として、付与者が偶然知りえた年休の利用目的を斟酌することは、決して労働基準法三九条の趣旨に反するものではない。
このように解すると、年休を請求した労働者が年休の利用目的を自ら告知しない場合は年休付与のための特別な扱いを受けられない結果となるが、利用目的を告知しない労働者は右特別な扱いを受けることを自ら放棄しているのであり、利用目的を告知したか否かで異なる取扱いを生じること自体は、やむをえないというべきである。
4 本件時季指定当時の西局郵便課の要員事情
(一) 職員の転入、転出の状況
(1) 昭和六一年当時、郵政省においては一〇月一日をもって郵便物の輸送方法を鉄道郵便から専用自動車便に切り換え、全国の鉄道郵便局をすべて廃止する大規模な効率化計画が予定されていた。
そのため、各郵便局においては定員に欠員が生じた場合であってもこれら廃止局の職員を受入れるため、新規採用を控え、九月三〇日までの欠員分は臨時補充員によって措置されていた。
西局郵便課においても、右効率化計画の実施を前に鉄道郵便局の職員の受入れが四、五名になるとの見込みがあったことから、定員に欠員が生じた場合であっても新規採用を控え、九月三〇日までの欠員は臨時補充員によって措置されていた。
右のような状況として、西局郵便課では九月三〇日までを任期として、谷口惟義、藤光静真及び山田巌實の三名を臨時補充員として採用していた。
(2) また、この間九月二〇日付けで大阪鉄道郵便局から矢本則文及び渡部和人の二名が、さらに、一〇月一日付けで広島鉄道郵便局から中谷光信がそれぞれ西局郵便課に転入した。
一方西局郵便課からは業務に精通し「特殊」の担務を担当できた近藤義治が一〇月一日付けで広島中郵便局に転出し、後補充は郵便内務経験がなく素人に近い状態であった西局第二集配課の林龍次を職種変更して配置換えする予定であった。しかし、右林の配置換えは第二集配課の後補充の関係から延び延びとなり、最終的には同月二七日付けで発令され、しかも同人が実際に西局郵便課に着任したのは同月二八日であった。
(3) 右林の任命までは、西局郵便課の定員は一名欠員となることから、九月三〇日で任期満了となる臨時補充員のうち山田巌實を再任用することとした。しかし、臨時補充員の任用は定員内職員のため西局限りでは実施することはできず、定員管理上郵政局の承認が必要とされていることから、郵政局に上申したところ当初一〇月二〇日まで承認され、さらに同月二五日まで延伸された。
その結果、一〇月二六日には一名の欠員が生じた。
(4) 前記三名の臨時補充員は、いずれも郵便内務経験者で業務に精通したベテランであり、藤光静真は三月三一日付けで西局郵便課を退職し、谷口惟義も同課の退職者であったが、前記鉄道郵便局から転入した三名及び西局第二集配課から転入した前記林の四名は、いずれも郵便内務の経験がなく、新人に近い状態であった。
このような職員の人事異動の状況は、西局郵便課の規模からすると異例なことであり、また、広島鉄道郵便局からの職員の受入れは、当初四、五名の過員になる位の人員を予想していたが、予想に反して過員どころか一名にとどまり、更に、前記林の発令が一〇月二七日まで延び延びとなるなど、不確定なものであった。
したがって、本件勤務指定期間の要員事情は、職員の異動状況からみてかなり厳しいものであり、特に原告が時季指定したうちの一〇月二六日は定員を一名欠き、二七日は実質的に一名欠員(林の着任は二八日)となった。その場合でも最低配置人員を確保しなければならないことから欠務許容人員が一名減り、年休を付与できる職員の数が一名減少するという影響を及ぼした。
(二) 出張の状況
(1) 西局郵便課における二月二三日から一〇月四日までの各勤務指定期間の出張者は多い時で五名、少ない時は出張者がいないという状況であったが、本件勤務指定期間中の出張者は延べ二一名もあり、ほかの時期よりも極めて多い人数であった。
(2) 本件勤務指定期間中の出張は、その時期、出張者数等の事前の予測が困難で、本件勤務指定表が作成、周知された九月二七日に具体的な出張が判明していたのは一三名に止まり、残りの八名のうち出張が予定されていた者はその時期、人数が未確定であり、その後突発的な出張もあった。
右のように出張者がある場合には、結果として要員に余裕がないことから通常の場合以上に年休の付与が困難となり、時季変更権行使の必要性が高まることになる。
また、出張した者にも週休、非番を付与しなければならないことから、出張者が二一名あれば当然に代替要員として二一名の勤務者を捻出する必要が生じ、この面においても要員配置上平常月と比べて年休の付与は厳しいものとなっていた。
しかも、出張二一日のうち一二日が本件勤務指定期間中の前半にあり、限られた欠務許容人員の枠内で業務の正常な運行を確保するために必要な勤務者を確保せざるを得なかったことから、職員の非番日か後半にずれ込まざるを得ないという連鎖的な影響もあった。
(三) 郵便物の波動性
郵便事業は、差出される郵便物の量によってその業務量が変動するという波動性があり、この波動性は時季別、月別、曜日別に存在する。そのため、郵便局管理者は最低配置人員を下回らないように要員配置に配慮し、郵便物の不結束の事態を回避する責務を負うが、この波動性を確定的に予測することは困難であり、要員事情の厳しい時期にあっては、何日も先の要員配置を波動性に対応できず、弾力性のないものにすることは危険であり、管理者は右事情を考慮して要員配置しなければならない。
5 事業の正常な運営を妨げる事情の存在
(一) 原告の本件時季指定にかかる両日は最低配置人員しか勤務指定されていなかった。
すなわち、一〇月二六日は最低配置人員が一三名のところに一三名が配置され、同月二七日は最低配置人員が二〇名(パートを除く。)のところに二〇名が配置されていた。
そして、西局郵便課では前記のように年休付与のために最低配置人員を欠く差し繰りは行わないことにしていた(特に日曜日の配置人員は一三名と限られていたので、一名でも配置人員を欠けば重大な業務支障につながることから最低配置人員を割って年休を付与することはなかった。)し、原告の本件年休請求は本件勤務指定期間の勤務指定表作成後にされたものである。
したがって、原告に年休を付与するためには勤務の差し繰りによる代替要員の確保が必要であった。
右差し繰りとして、西局郵便課においては、日曜日以外の日に週休日、非番日を指定されていた職員に対し勤務の変更を要請することが行われていた。
(二) しかしながら、右勤務の差し繰りに当たっては、次のような事情があった。
(1) 原告の右両日の担務はいずれも「特殊」担務であったが、これは西局郵便課の業務全般に精通した職員でなければ担当できない習熟を要する担務であり、代替勤務につくことができる職員は限られていた。
(2) 本件勤務指定期間においては、多くの人事異動が予定されていたが、それが確定していなかったことから予測が困難で、相対的に人員に余裕がなかった。
しかも、職務に精通した臨時補充員が任期満了で退職予定であったし、また、職務に精通した職員が他局に転出した。
更に、西局郵便課に配置換になり、または転入した職員はいずれも経験が浅く、担当できる担務が限定されていた。
したがって、勤務指定上のみならず勤務変更においても多くの制約を受けた。
(3) 本件勤務指定期間においては多数の出張者が予定され、週休、非番の付与が勤務指定期間の後半にずれ込んでいたこと及び本件時季指定にかかる両日は本件勤務指定期間の第四週に当たっていたことから、代替者の週休日及び非番日を本件勤務指定期間内に振替えることが困難であった。
(4) また、原告が指定した年休は二日連続であったが、一部のみの付与はできないことから二日分の振替が必要であり、一日だけの場合よりも困難であった。
(5) 本件当時の要員事情は日単位、週単位で変動しており、このような要員配置の見通しがはっきり立たない状況の中で何日も先の勤務の差し繰りを行うことは、動きのとれない要員事情を一層固定化、非弾力化することになるので、要員事情の推移を見ざるをえなかった。
(6) なお、週休日及び非番日の交替は、年休付与とはならない。また、原告主張の欠務の実例は、それなりのやむをえない事情があったものである。
6 本件時季変更権行使の適法性
(一) 杉下課長は、原告から本件年休請求があった以後、本件年休請求について種々検討したものの、前記5(二)(1)ないし(6)の各事情から勤務指定の変更等勤務の差し繰りが困難であり、原告に本件請求にかかる両日に年休を付与すれば必要な配置人員を確保することができず、事業の正常な運営を妨げる事情があると判断したことから、前記1(二)(3)のように一〇月二〇日午前八時三四分ころ、原告に対して本件時季変更権を行使した。
(二) 原告が年休請求をしたのは九月二七日であり、被告が時季変更権を行使したのは一〇月二〇日であるが、このように原告から年休請求があった当初に時季変更権を行使できなかったのは、本件勤務指定期間においては出張者が多く、人員異動もあったが、それらの予定は不確実であったことから、九月二七日の段階で杉下課長から原告に対し時季変更するかもしれない旨を伝え、予定が固まって一〇月二六日と二七日の状況がはっきりするまで事業の正常な運営を妨げる事情が存在するか否かの判断を留保していたものである。
(三) 時季変更権行使の理由の通知及び変更時季の通知は時季変更権行使の要件でないが、本件時季変更権行使は、一〇月二〇日、業務上の支障により一一月中に時季変更する旨通知し、再度一〇月二四日確認の通知をしたので、適法な手続に基づいてなされている。
(四) また、使用者に年休を取得させるために他の職員に具体的に打診する義務はなく、使用者が通常の配慮をすれば年休を付与することができたか否かを客観的に判断すべきであり、これによって事業の正常な運営を妨げる事情がある場合には、時季変更権の行使は適法であるところ、本件の場合、勤務変更を行い代替勤務者を確保することが客観的に不可能であった。
(五) 右の事業の正常な運営を妨げる事情とは、現実に業務阻害の結果が発生することを要するものでなく、時季変更権行使の時点においてその発生の蓋然性があれば足りる。
そして、原告が時季指定した一〇月二六日及び二七日に最低配置人員を欠くことはそれ自体事業の正常な運営を妨げる蓋然性が高いというべきである。
のみならば、一〇月二六日は職員の森山和則に異例の勤務時間を離れた二時間の超過勤務を命じたことによって、また、同月二七日は複数の職員が原告の担務を分担応援したことによって、それぞれ業務支障を防止したのであり、原告が右両日に欠勤したことにより現実に業務阻害の状況が生じたものである。
(六) 以上のように、被告の本件時季変更権の行使は、原告の思想、信条と何ら関係がなく、適法である。
7 本件処分の適法性
原告の本件時季指定にかかる一〇月二六日及び二七日の年休請求は、被告の本件時季変更権が適法に行使されたことにより変更され、杉下課長が原告に対し勤務するよう命じていたのであるから、右指定にかかる両日に原告が所定の勤務を欠き、更に、九月二七日に右年休の請求にかかる年休請求書を提出した際、上司である杉下課長に暴言を浴びせたため、被告が原告を一二月一八日、懲戒戒告処分に付したものであり、本件処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一)(1) 抗弁1(二)(1)の事実のうち、九月三日原告が被告主張のように年休請求したこと、これに対して杉下課長が時季変更したこと、九月二七日午後一時ころ原告が被告主張のような申出をしたことは認めるが、その余は否認する。
杉下課長は、原告が九月三日にした時季指定に対して、一〇月中と指定して時季変更したものである。
(2) 同1(二)(2)の事実のうち、午後一時五〇分ころ原告が杉下課長の机の上に本件年休請求の請求書を提出したことは認めるが、その余は否認する。
そのとき同課長は「時季変更になるからな。」と発言した。
(3) 同1(二)(3)の事実のうち、一〇月二〇日に杉下課長が本件年休請求に対し時季変更する旨述べたこと(ただし、同課長は右時季変更の際に誤って本件年休請求の日を九月二六日と述べ、また同課長から一一月中との時季指定はなかった。)及び一〇月二四日に同課長が再度本件年休請求を時季変更した旨を述べ、勤務を命じたことは認めるが、その余は否認する。
杉下課長は一〇月二四日の発言の際に「欠勤するようなことがあれば厳重に対処します。勤務時間の内外を問わず、公務員としてふさわしい行動をすることを付け加えておきます。」と述べた。
(4) 同1(二)(4)の事実のうち、原告が一〇月二六日及び二七日に就労しなかったこと及び右二七日に松村達雄西局庶務課長らが原告宅を訪問したことは認めるが、その余は否認する。
(二) 同1(三)は争う。
2(一) 抗弁2(一)及び(二)の事実は認める。
(二) 同2(三)の事実のうち、担務指定表が勤務指定表と並行して作成されていたことは否認し、その余は認める。
ただし、同(三)(2)の事実のうち担務指定上、「特殊」及び「窓口」の担務を担当できる職員が限られている理由は、習熟を要する業務であるからではなく、直接に現金を扱う業務であるから在籍年数が長い者が担当していたからにすぎない。
(三)(1) 同2(四)(1)の事実のうち、郵政省が郵便物数調査に基づいて配置人員を算定していること及び配置人員が別表二のとおりであることは認めるが、その余は否認する。
要員配置は各曜日一定であり、最高とか最低の配置人員が存在するのではない。
(2) 同2(四)(2)の事実のうち、定員が三二名であったこと、西局郵便課の現在員及びその内訳は認めるが、その余は否認する。
3(一)(1) 抗弁3(一)(1)の事実のうち西局郵便課が二四時間勤務で郵便物の処理に当たっている交替制の職場であり、職員の勤務の態様は勤務の種類及び担当する業務が毎日変わる変形勤務であることは認めるが、その余は否認する。
(2) 同3(一)(2)の事実は否認する。
西局郵便課では最低配置人員しか要員配置されていなかったのであり、最低配置人員を上回る勤務指定はありえない。
(3) 同3(一)(3)の事実のうち代替勤務者確保の方法として、①の勤務の差し繰り、②の廃休・廃非番、③の非常勤職員の雇用の方法があることは認める。
ただし、①の勤務の差し繰りの方法について、それがすべての要員配置に欠務を生じさせない趣旨で行われること、専ら①の勤務の差し繰りの方法によって代替勤務者を確保していたことは否認する。
また、②の廃休、廃非番の方法のほかに、年休請求を取下げ、職員どうしで週休日・非番日を交替する方法もある。
(二) 抗弁3(二)ないし(五)の事実は否認し、主張は争う。
4(一)(1) 抗弁4(一)(1)の事実のうち西局郵便課において、三名の臨時補充員を採用していたことは認めるが、その余は不知。
(2) 同4(一)(2)の事実のうち九月二〇日付で矢本、渡部の二名が、一〇月一日付で中谷が転入し、また、同日付で近藤が転出し、同月二七日付で林が転入したことは認めるが、その余は不知。
(3) 同4(一)(3)の事実のうち臨時補充員として山田(巌)が一〇月一日付で採用されて同月二五日まで勤務したこと及び同月二六日が西局郵便課の定員を一名欠いたことは認めるが、その余は不知。
(4) 同4(一)(4)の事実のうち、業務に精通した職員が転出あるいは退職し、郵便内務の経験のない職員が転入したことは認めるが、その余は否認する。
(二)(1) 同4(二)(1)の出張が多かったことは認める。これは、一〇月当時が年間で最も郵便物の少ない時期で研修等が実施されたからである。
(2) 同4(二)(2)は否認する。
出張は、主事・主任らの統括担当者に多く、代替勤務者となるうる職員についてはほかの月と比べて特段に異なるものではなかった。
(3) 同4(三)の事実は否認する。
本件勤務指定期間に差し出された郵便物の量が特に多かったことはなかった。
5(一) 抗弁5(一)の事実のうち、原告の本件時季指定にかかる両日が最低配置人員しか配置されていなかったこと及び原告が勤務指定表作成後に本件年休請求をしたことは認めるが、その余は否認する。
(二) 同5(二)(1)ないし(6)の事実は否認し、主張は争う。
6(一) 同6(一)ないし(四)は争う。
(二) 同6(五)の事実のうち、森山が一〇月二六日に二時間の超過勤務についたこと、二七日に当日勤務職員が特殊担務を応援したことは認めるが、その余は否認し、主張は争う。
7 抗弁7は争う。
五 原告の主張
1 事業の正常な運営を妨げる事情の有無について
(一) 要員配置
別表二の要員配置欄に記載された人員数は、西局郵便課の各曜日毎に配置される単なる人員数にすぎず、被告が主張するような、それを確保しなければ業務に支障が発生する蓋然性が生じるという最低配置人員を意味するのではない。
また、西局郵便課においてはこれまで右最低配置人員を上回る人員配置を行ってきたこともない。
(二) 要員配置と年休付与
右のような要員事情のもとで、西局郵便課では年休請求があった場合にこれまで日常的に欠務を生じさせて対処してきた。
すなわち、年休請求は要員配置された職員が年休権を行使するものであるから、年休をそのまま付与すれば要員配置を欠くことになる。また、年休が請求された日に週休、非番等であった職員の中から代替勤務者を確保して補充したとしても、廃休、廃非番としない限りその者にどこかで週休、非番等を振替えなければならず、さらに週休、非番等を振替えればそこで要員配置を欠くことになり、結局は要員配置を欠いた状況がどこまでも存続する。
したがって、どこかで欠務を生じさせなければ年休を消化できないのである。
(三) 年休付与と欠務の発生
西局郵便課では、年休請求に対する勤務の差し繰りは欠務を生じさせて対処するのが原則であった。
本件勤務指定期間の四週間においても、一〇月七日、八日、一一日、一六日、一七日、一八日、二〇日、二三日、二五日、三〇日、三一日、一一月一日の一二日間に一五回の欠務を生じさせているのはその例である。
また、年休は時間をもって指定する場合もあり、西局郵便課においては毎日のように時間をもってする年休が取得されてきたが、その場合には勤務の差し繰りをせず、欠務を生じさせていた。
このように欠務を生じさせるのは、経験年数の少ない職員が担当する担務(例えば、「早1区分」や「夜3私書箱」など。)を欠務処理する方法が一般的であり、その場合、当日の勤務職員が欠務となった業務を協力して補って業務支障の発生を防止してきたのである。
(四) 勤務の差し繰りの方法
年休請求者の担務が一定の重要な担務であってそのまま欠務処理できない場合には、勤務の差し繰りを行うことになり、まず、当該年休日の勤務職員の担務変更により「早1区分」や「夜3私書箱」を欠務処理する方法がある(本件勤務指定期間における例としては、一〇月三〇日に面村が年休を取得し、担務変更の上最終的に「早1区分」が欠務処理されている。)。
もう一つの方法として、当該年休日に週休、非番等の職員の了解を得て勤務変更し、その者を代替勤務者として確保する方法がある。ただし、この場合には、代替勤務者の週休、非番を廃休、廃非番としない限り、代替勤務者に別の日に週休、非番を振替えなければならないことから、週休、非番を振替えた日に「早1区分」や「夜3私書箱」を欠務処理することになる(本件勤務指定期間における例として、一一月一日に須田が年休を取得しているが、当日非番の森広が代替勤務者として須田の担務につき、一〇月二九日に森広が「日3」の担務から非番に変更されているが、これは「日3」の担務が欠務処理できないものであったことから、当日の井上、花岡に担務変更を行ったものである。そして、その結果花岡は一〇月二〇日に「夜3」勤務であったものが非番に勤務変更を受け、最終的に同日の「夜3私書箱」を欠務として処理した。)。
ただし、日曜日や祝祭日のように配置要員が少ない日に年休請求があった場合、当日の勤務者だけでは処理できないので通常は欠務処理させることはなく、その日の週休者等の中から勤務変更をして代替勤務者を確保し、その代替勤務者の週休等を廃休、廃非番とするか、あるいは、ほかの平日に週休を振替えて、その日の担務を変更して最終的に「夜3私書箱」等を欠務処理することが可能である。
(五) 日曜日と年休請求
被告は、西局郵便課においては日曜日に年休請求があった場合、日曜日の週休者等を勤務の差し繰りの対象とする扱いはしていなかったと主張するが、日曜日を特にほかの曜日と異なる扱いをする合理性はない。
また、日曜日の週休を職員に平等に付与すべきことを取り決めした書面があるわけではなく、実際上も日曜日の週休が各職員平等に付与されていたとの事実はない。
すなわち、本件を含む三勤務指定期間(一二週間)において、個々の職員が実際に取得した日曜日の週休指定の日数を比較すれば、三勤務指定期間に七日取得した職員と四日しか取得しなかった職員がいて、三日の差異が存する。
また、このような日曜日の週休取得の状況に職員が異議を唱えた事実もなく、かえって多くの職員が日曜日の週休、非番を変更して勤務に就くことに同意しているのであり、日曜日の週休を平等に付与しなければならないとの被告の主張は、所属長あるいは担当者の異なる気持や精々道義的な感情にすぎず、法的な規範性を有するものではない。
したがって、前記のように、平日と同様に日曜日にも勤務の差し繰りを行い、平日に欠務を生じさせるように勤務の差し繰りを行うことはできるのであるから、日曜日であることをもって勤務の差し繰りが困難であるということはできない。
実際にも日曜日に年休が付与された場合として、五月一八日の福田雅美、六月二二日の谷口惟義、七月二〇日の増野耕司、八月二四日の橋本和弘及び藤光静真、同月三一日の田中直樹、九月二八日の日高正昭、一〇月一九日の右福田の例がある。
(六) 年休の利用目的
被告は、職員から年休請求があった場合に勤務の差し繰りが困難であっても、職員から自発的に年休利用の目的を述べ、それが社会通念上やむをえない理由のときは欠務を発生させて年休を付与していたと主張するが、社会通念上やむをえない理由の年休権行使であるか否かにかかわらず、年休を付与し、欠務を生じさせて年休を付与してきたものである。また、社会通念上やむをえない理由とは、被告の主張する例によればほとんどが病気休暇であって、このことは年休の自由取得を否定するに等しい。
更に、使用者はもとより労働者の年休の利用目的の陳述を強要したり、規制したりすることは許されないが、被告の主張によれば要員配置に余裕がなく恒常的に欠務を生じる職場環境においては、積極的に年休の利用目的を陳述し、かつ年休の利用目的が社会通念上やむをえない理由である場合でなければ年休を取得できないことになり、そのような場合に限って時季変更権を行使しないとすることは、結果として労働者にその年休の利用目的の陳述を強制することに等しく、使用者の干渉を許すことになって違法である。
(七) 事業の正常な運営を妨げる具体的事情
(1) 人員配置に余裕がなかったとの主張について
人員配置に余裕がなく、右両日に欠務を発生させることが困難であれば、勤務変更により他の曜日に年休の時季指定があったと同様に処理することが可能である。
すなわち、一〇月二六日の日曜日にはその日に週休、非番の職員から代替勤務者を確保して、その者にほかの曜日に年休、非番を付与すれば日曜日に欠務は生じない。その結果代替勤務者に週休、非番を付与した日には欠務が発生することになるが、これはその日に年休の時季指定があった場合と同様に処理すればよい。このように、日曜日に最低配置人員しか配置されていなかったにもかかわらず年休が付与された例があることは前記(五)のとおりである。
更に、一〇月二六日に欠員が一名生じていたとしても、そのことは一日だけ不就労者が一名少なくなることを意味するにすぎず、年休請求に対して影響を与えることはない。
そして、一〇月二七日についても、その日に週休、非番だった者が代替勤務に就くという差し繰りをすればよい。
したがって、年休を付与するにあたって時季指定当日の配置人員に余裕があるか否かは関係がない。
(2) 原告の担務が「特殊」であったとの主張について
仮に「特殊」担務を担当可能な職員が限られていたとしても、具体的に代替勤務者が確保できる以上、原告の時季指定にかかる両日の担務が「特殊」担務であったことから勤務の差し繰りが困難であったとはいえない。実際にも一〇月二六日については、週休の者のうちには七名の特殊担務が可能な職員(美野好和、田中直樹、福田雅美、面村徹美、井上正志、橋本和弘及び杉本隆)がいたのであり、かつ、勤務変更を命じられた場合にはそれに応じる意思があった職員もいた。
(3) 人事異動及び出張等の事情により要員事情が厳しかったとの主張について
業務に精通した職員が転出したとしても、右(2)と同様に、原告の時季指定日の「特殊」担務を担当できる職員を確保できるのであれば、勤務の差し繰りが困難であったとはいえない。
また、原告が時季指定した一〇月二七日以降一一月一日までに、大立伸二、面村徹美、須田政司、福田雅美ら多数の職員が時季変更権を行使されることなく年休を取得し、その中には原告と同種の技量を有する業務に精通した職員もいたのであるから、この点においても本件勤務指定期間の要員事情が厳しかったということはできない。
(4) 勤務指定期間の第四週の差し繰りが困難であったとの主張について
勤務指定期間の第四週においてその週の日が時季指定された場合にはそのように主張できるとしても、原告が本件時季指定をしたのは本件勤務指定期間が始る一週間前の九月二七日である。すなわち、本件勤務指定期間の全期間のうちでいずれかの日に代替勤務者に週休日等を振替えることが可能であるから、勤務の差し繰りが困難であったとはいえない。
また、右(3)のように、一〇月二六日以降一一月一日までの間に、大立、面村、須田、福田らの年休請求があり、玉突き的勤務変更がなされ、かつ、欠務すら生じさせて年休を取得させていることからも、時季指定された日が勤務指定期間の第四週であるとの理由で一〇月二六日、二七日の両日に勤務変更できなかったとの理由は根拠がない。
(5) 二日連続の年休請求であったとの主張について
二日連続の年休請求であり、そのうち一〇月二六日が日曜日であったとしても、右(1)で述べたように、それぞれの日について代替勤務者の確保は可能であった。
(6) 週休・非番の交替の例について
職員どうしが週休日、非番日を交替することによって年休を取得した例としては、四月六日の日曜日に浅原が田部と交替した例がある。
(八) 手続の違法について
郵政省と全逓新労働組合との「年次有給休暇に関する協約」附属覚書(<書証番号略>)によれば、職員から特に求められたときは業務の正常な運営を妨げる事由の要旨を口頭告知すること及びその予定する時季を日、週または月をもって通知することが必要である。しかし、杉下課長は、九月二七日、一〇月二〇日及び二四日のいずれの際にも原告が求めたにもかかわらず具体的な事由の告知をせず、また、予定時季の指定もしなかった。
したがって、本件時季変更権の行使は適法な手続を欠き、違法である。
(九) 年休の取得のために配慮すべき義務について
労働者の年休権は労働基準法三九条一項及び二項の要件を充足すれば法律上当然に発生することからすれば、使用者は労働者が指定した時季に年休を取得することができるように状況に応じた配慮をすべき義務がある。
しかし、杉下課長は原告の本件時季指定に対して原告の勤務指定を確認することもなく、また、勤務指定の変更の可否を指示することもなく、即座に時季変更権を行使し、年休取得のための義務を何ら尽くさなかったものである。
(一〇) 事業の正常な運営を妨げる事情の意義、業務支障発生の蓋然性について
西局郵便課の要員配置は、職員の年休取得に対処できるものではなく、これまで最低配置人員を確保して欠務を生じさせることなく業務を遂行してきた事実は全くない。年休の対処は欠務処理によって行ってきたものである。
そして、年休等により欠務が生じた場合、勤務職員が欠務となった業務を応援してきた結果、結束事故は全く生じなかった。このことは、一〇月二六日及び二七日においても同様である。
したがって、単に最低配置人員を欠くことをもって業務支障を生じるということはなく、本件年休の取得によって最終的にどこかの担務に欠務が生じても、何ら業務支障の発生の蓋然性が存在したわけではない。
(一一) 本件時季変更権行使の目的
(1) 郵政省は、組織的に職員が成田での三里塚現地集会への参加を阻止することを意図していた。
原告は、昭和五三年三月成田空港開港反対闘争以後、成田での三里塚現地集会開催日に年休の指定をすると、ことごとく時季変更権を行使されてきたのであり、その回数は約一五回にも及ぶが、これは原告に限り、しかも成田での現地集会開催日に限って時季変更権を行使されたもので、ほかの職員と比較して異常に多い。
(2) 杉下課長は、原告の本件年休の利用目的が成田での現地集会への参加のためであることを認識しており、九月二七日の原告の年休請求に対し、即座に時季変更権を行使し(仮に、同課長が時季変更権を行使したのが一〇月二〇日であったとしても、九月二七日の段階で直ちに時季変更する旨通知している。)、一〇月二〇日まで年休を取得させるために具体的な勤務変更の手配を全くしなかったことからして、時季変更権行使の目的はほかに存在し、同課長には当初から原告に年休を取得させる意図はなかった。
(3) 杉下課長は郵政当局の意図を受け、原告が成田での現地集会に参加することを阻止するために本件時季変更権を行使したもので、憲法で保障された集会結社の自由、思想良心の自由、表現の自由に違反する違法なものである。
(一二) まとめ
原告の本件年休請求に対し、杉下課長は原告の勤務指定を確認することもなく直ちに本件時季変更権を行使したが、右時季変更権は、①前記のように事業の正常な運営が妨げられるという事情がなく、労働者が指定した時季に年次有給休暇を取得できるように勤務指定を変更するなど配慮すべき義務があるにもかかわらずその義務を尽くすこともなく、しかも必要とされる手続を履践することなく行使したという違法があり、また、②原告が成田の三里塚において行われる予定であった成田空港開港阻止闘争現地集会に参加することを阻止する目的で時季変更したもので、思想、信条、表現の自由を侵害する違法、無効なものである。
したがって、原告の本件時季指定にかかる年休は有効に成立し、原告に無断欠勤の事実はない。
2 懲戒権の濫用
(一) 西局郵便課では、これまで原告に対してのみ、しかも原告が前記成田での集会に参加しようとする場合に限って、時季変更権の行使がされてきており、不平等、不公正な取扱いであった。
(二) 杉下課長は、時季変更権を行使する際、常々業務上の都合とのみ答え、具体的事情を一切説明せず、原告を説得しようとしなかった。
(三) 原告の時季指定に対して同課長は、原告の勤務の予定を確認することなく、「時季変更するからな(時季変更します)。」と答え、一か月先の都合を全く検討しなかったもので、恣意的な時季変更権の行使である。
(四) 原告が時季指定した両日において、結果として業務に支障は生じなかった。
(五) 以上から、本件処分は懲戒権の濫用であり、無効である。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二そこで、本件処分の適法性について判断する。
(一〇月二六日及び二七日の無断欠勤の有無について)
1 原告が、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で、九月二七日午後一時五〇分ころ杉下課長に対し時季を一〇月二六日及び二七日とする年休請求をしたこと、同課長が一〇月二〇日原告に対し右年休請求について時季変更する旨述べたこと及び原告が一〇月二六日と二七日に所定の勤務を欠いたことは当事者間に争いがない。
なお、原告は、杉下課長は原告の本件年休請求に対し九月二七日直ちに時季変更権を行使したと主張し、<書証番号略>、証人杉下幸郎の証言及び原告本人尋問の結果によれば、杉下課長は、原告の本件年休請求の請求書が提出された際に、原告に対し、「これは時季変更になるからな。」と述べたことが認められるが、右発言は、時季変更する旨を断定的に述べたとはいえず、時季変更するつもりであることを述べたものと解されるし、前掲証拠によれば、杉下課長も原告もともに、その時点において確定的に時季変更したり、されたりしたとは認識していなかったことが認められるので、右発言から直ちに杉下課長が時季変更権を行使したものということはできない。また、<書証番号略>の本件年休請求書の欄外に「時季変更します。」との記載(杉下課長作成)があるが、前掲証拠によれば、右記載は、杉下課長がその発言をそのとおりに正確に書いていないことが認められるので、右記載から直ちに杉下課長が九月二七日時季変更権を行使したものと認めることはできず、他に同課長が同日原告に対し時季変更する旨の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。なお、<書証番号略>中、原告が本件年休請求した際、杉下課長は原告に対し、「時季変更するかもしれないよ。」と言ったとの部分は、前掲証拠及び<書証番号略>に照らして信用できない。同課長の発言は前記認定のとおりである。
したがって、杉下課長が原告の本件年休請求に対し時季変更権を行使した日は一〇月二〇日ということになる。
なお、原告は、時季変更する事由の要旨及び変更する他の時季の通知がなかったので、本件時季変更権の行使は違法であると主張するが、右通知の有無は時季変更権行使の効力には直接影響しないと解すべきである。
2 労働基準法三九条四項によれば、「使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし。請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」旨が定められている。右の「事業の正常な運営を妨げる」事情の存否は、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代替勤務者の配置の難易等諸般の事情を考慮して年休制度の趣旨に反しないように合理的かつ客観的に判断すべきである。
3 そこで進んで、原告に一〇月二六日及び二七日に年休を与えることが西局郵便課の業務の正常な運営を妨げるかについて検討する。
(一) 西局は広島市西区全域を郵便区とし、同局郵便課は、利用者から郵便局窓口や郵便差出箱(通称ポスト)を通じて差し出される各種郵便物の引受、差立、到着処理、配達区分、郵便切手類の販売等の郵便内務事務全般を所掌し、二四時間勤務体制で郵便物の処理に当たっている交替制の職場であること、昭和六一年一〇月二〇日当時の西局郵便課の定員は三二名、現在員も三二名であり、その内訳は、課長一名、課長代理一名、主事三名、主任六名、一般職員二一名(国家公務員法六〇条の臨時的任用の職員一名を含む。)であったが、そのうち、課長及び「計画」の担務に固定配置された二名の職員を除き、原告を含む二九名が別表一記載の早出勤務、日勤勤務、中勤勤務、夜勤勤務、一六時間勤務の五種類の勤務形態で別表二記載の作業内容の業務(ただし、「計画」の担務を除く。)を担当していたこと、右二九名の勤務については四週間を単位として勤務日における職員別の勤務の種類や週休日等を定めた勤務指定表が作成され、当該期間の開始日の一週間前までに職員に周知されていたこと、更に、右勤務の種類に基づく勤務時間中の担当職務について職員別に分担業務を指定した一週間単位の担務指定表が作成され、その一週間の開始日の前日に周知されていたことは当事者間に争いがない。
そして、<書証番号略>によれば、郵政省は、毎年定期的に全国の郵便局で郵便物数調査を実施し、その調査結果を基に、取扱郵便物数の波動性、各郵便局の作業実態等並びに休憩、休息時間を考慮して、各郵便局郵便課の曜日別、担務別に、郵便物を処理するために必要な最低限の配置人員を算出しており、これによれば、一〇月当時、西局郵便課の曜日毎のパートを含めた最低配置人員(ただし、「計画」の担務は、要員が二名固定配置され一般職員が担当しないからこれを除く。)は、別表二のとおり、日曜日が一三名、月曜日が二一名、火曜日が二三名、水曜日から金曜日までが各二四名、土曜日が二三名と決定されていたこと、一〇月一日当時も定員及び現在員は前記のとおり三二名であり、郵便業務を扱う六時間パートが一名いた(ただし、日曜日を除く。)ので、課長及び「計画」担当の二名を除いた三〇名が郵便物取扱い業務に従事していたこと、したがって、右三〇名(日曜日は二九名)から右配置人員を差し引いた人員に対し週休日、非番日、年次有給休暇等を付与することが可能であったこと、一〇月当時、前記原告ら一般職員二一名中、書留郵便物等の処理をする「特殊」の担務ができた職員は原告を含め一四名いたこと、一〇月五日から一一月一日までの四週間の勤務指定表は九月二七日午前職員に周知されたが、その勤務指定表により一〇月二六日(日曜日)は一三名、二七日(月曜日)は二一名の職員が勤務指定され、両日とも前記最低配置人員の配置であったこと、そして、一〇月二六日原告が勤務指定された日3(勤務時間が午前八時三〇分から午後四時五三分まで)の勤務者の中では原告だけが「特殊」の担務ができたこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、原告に一〇月二六日及び二七日に年休を与えると、一〇月二六日の日3の勤務で「特殊」の担務をできる者がいなくなるうえ、右両日とも最低配置人員を欠くことになる。
(二) しかし、被告において、原告の担務ができる代替勤務者を確保することができれば、右両日について西局郵便課の業務の正常な運営は何ら阻害されない。したがって、勤務割による勤務体制がとられている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年次有給休暇の時季指定がされた場合に、使用者として通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解すべきである(最高裁昭和六二年七月一〇日判決民集四一巻五号一二二九頁参照)。
(三) <書証番号略>及び証人杉下幸郎の証言によれば、代替勤務者を確保するために西局郵便課でしていた方法は、年休を請求された日に計画年休(当該年度中の休暇付与予定計画に基づき付与されるもの)、週休、非番を付与されていた者のうち、年休請求者の担務ができる者について勤務の差し繰りを検討したうえ、主事、課長代理が右の者に打診し、その了解を得て勤務の変更をしていたこと、この方法は年休を請求された日が日曜日であっても同様であったことが認められる。
この点に関し、被告は、日曜日を指定して年休請求された場合、年休の利用目的が社会通念上やむをえないと認められるものでない限り、日曜日の週休及び非番の者に対して勤務変更について打診することは行われていなかったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。<書証番号略>(吉森巖からの聴取書)及び証人杉下幸郎の証言中には、日曜日の週休及び非番の者に対する勤務変更の依頼はあまりしていなかった旨の記載ないし証言があるが、これが、被告主張の場合以外は勤務変更について打診することは行われていなかった趣旨のものであれば、<書証番号略>(杉下課長は、日曜日でも代替勤務者があって週休、非番の差し繰りがつけば年休を与えるが、本件の場合は一〇月の第四週であり代替者の週休等を後にずらす余地がなかったので打診しなかったとはっきりと述べている。)及び証人杉下幸郎の証言中の他の証言部分に照らして信用できない(特に、<書証番号略>は、吉森巖が法廷で証言しないことを前提に作成されており、信用性は低い。)。前記認定のように、被告主張のような運用が行われていたわけではない。
そもそも、被告主張のような運用は、業務の正常な運営を妨げる場合に、年休の利用目的が社会通念上やむをえないことを理由に時季変更権の行使を差し控えるのと異なり、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるのに、休暇の利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものである。
また、日曜日の週休及び非番の者を勤務変更して日曜日以外の日に週休、非番を与えたとしても、もともと四週間の勤務指定期間において職員に全く同じ回数の日曜日の週休、非番を与えることは不可能であり、次の勤務指定の際に右の変更したことを考慮して日曜日の週休、非番を与えるようにすれば、職員に平等に日曜日の週休及び非番を与えることが可能である。
次に、日曜日の週休及び非番の変更を職員が嫌がっていたかであるが、西局郵便課はもともと二四時間勤務体制の交替制の職場であり、日曜日の週休及び非番が職員に平等に確保される限り、他の曜日の週休及び非番の変更と特に事情が異なるとは考え難い。問題は、その週休及び非番の日に既に予定を入れているか否かであって、これは他の曜日でも同じことである。日曜日は予定が入りやすいということはできるので、早い段階で勤務の変更を打診すれば、当初からその日曜日に週休又は非番が指定されなかったと考えて勤務の変更に応じる職員は多いと考えられる。
(四) 一〇月二六日(日曜日)及び二七日(月曜日)の勤務の変更の具体的方法について検討する。
<書証番号略>によれば、一〇月二六日及び二七日が週休又は非番である者のうち、原告と同様に「特殊」の担務ができる者は、一〇月二六日の週休者一四名のうちの美野好和、田中直樹、福田雅美、面村徹美、井上正志、橋本和弘、杉本隆の七名及び非番の田部護、二七日の週休者の森広節明、藤原敏真、田部護の三名及び非番者五名のうちの田中正樹、杉本隆の二名であることが認められる。右両日とも計画年休を与えられた者はいないので、一〇月二六日は右八名に対し、二七日は右五名に対し週休又は非番の変更の打診をする。同意が得られた各一名を原告の代替勤務者として二六日及び二七日の勤務に就かせる。そして、代替の週休又は非番は、一〇月五日から一一月一日までの間で、計画年休を付与されている者がいる日のうち、計画年休を次の勤務指定期間にずらすことに同意が得られる者がいる適当な日にそれぞれ与え、そして、右計画年休を変更して右代替勤務者の勤務に就かせる。このようにすれば、欠務を生じさせることなく容易に勤務の差し繰りが可能である。
被告は、一〇月五日から一一月一日までの間は多数の出張者や人事異動で要員事情が厳しく勤務の差し繰りが困難であったと主張する。課長及び「計画」担当の二人を除いた三〇名(日曜日は二九名)から前記最低配置人員を差し引いた人員(欠務許容人員という。)から週休日、非番日、計画年休日等が付与されるから、出張者が多数いればそれだけ計画年休を付与できる人員が少なくなる。しかし、右期間全体の欠務許容人員は二二八名であり、これからパートを除く二九名に週休四日、非番二日を与えると、右欠務許容人員は五四人(=228−29×6)となる。出張者が二一人(二一日間)いて欠員が一名(一日)いたとしても、残りの欠務許容人員は三二名となる。このように要員事情が厳しくても、右のように欠務許容人員の余裕があり、実際にも一〇月五日から一一月一日までの勤務指定表で当初三二名(延べ人員)に計画年休が付与されていたので、これら計画年休者の同意を得て前記のように勤務の差し繰りすることは何ら困難ではない。
<書証番号略>及び証人杉下幸郎の証言によれば、九月二七日杉下課長は原告に対し、一〇月五日から二一日までの間の連続した二日間であれば、原告に年休を与えていたと認められるので、一〇月五日から二一日までの間に原告に年休を与えることが可能な二日間に、前記一〇月二六日及び二七日の代替の週休日又は非番日を与えることも当然に可能であるこということができる。また、証人杉下幸郎の証言によれば、突発的で社会通念上やむをえない理由による年休請求や急な出張が出た場合には、「夜3私書箱」や「早1区分」を欠務処理していたことが認められるので、予測し難い場合のために人員の余裕を作っておく必要はない。
被告は、要員事情が厳しく勤務の差し繰りが困難であったと抽象的に主張するだけであり、それが前記勤務の差し繰りに具体的にどのように影響し、そのためにどのようにできないかについては主張していないし、この点について証人杉下幸郎も答えることができなかった。
更に、出張者が多く要員事情が厳しくなっても、右説示のように前記の勤務の差し繰りに影響することは考えられないから、杉下課長は、勤務指定表が既に周知されており、約一か月前に請求された原告の本件年休について直ちに勤務の差し繰りを具体的に検討することが可能であり、その検討をしたうえ、対象となる職員に勤務の変更等を打診すべきであったということができる。そうすれば、一〇月二六日及び二七日が第四週であるから代替者の週休日及び非番日の付与が困難であるということはいえないのである。要員事情の推移を見ざるをえなかったという被告の主張も抽象的であり説得力がない。
(五) <書証番号略>及び証人杉下幸郎の証言によれば、杉下課長は九月二七日に請求された原告の本件年休について具体的な勤務の差し繰りを全く検討しないで保留にしておき、一〇月二〇日ころ、原告の勤務を他の者に代替させた場合、代替者に一一月一日までに週休又は非番を与えることは困難であると判断して、一〇月二〇日原告に対し時季変更権を行使したことが認められる。
(六) 以上によれば、杉下課長の本件時季変更権の行使は、使用者が通常の配慮をすれば勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあったにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されなかったものであり、事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないから、本件時季変更権の行使はその要件を欠き無効である。
したがって、一〇月二六日、二七日について原告に年次有給休暇が成立し、原告が右両日の所定の勤務を欠いても無断欠勤とはならない。
(暴言について)
前記二1の認定の事実に、<書証番号略>及び証人杉下幸郎の証言を総合すれば、原告は、九月二七日午後一時五〇分ころ、自席で執務中の杉下課長のところへ行き、「課長。ふん。」と言って、一〇月二六日及び二七日を時季指定した年休請求書を同課長の机の上に置いたこと、これに対して同課長は、「これは時季変更になるからな。」と述べたこと。原告はこれに憤慨し、同課長に対し、大きな声で、「ちゃんと出せよ。やかましいやい。」と述べたこと、杉下課長は原告の右発言に対して注意をしたことはなく、被告も一〇月二七日原告に対し無断欠勤について始末書を提出するように求めたが、右発言については問題にしていなかったことが認められ、<書証番号略>のうち右認定に反する部分は前掲証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
使用者は、労働者から年次有給休暇の請求がなされたとき、その年休を与えることが業務の正常な運営を妨げるか否かについては、前記二2で説示したような諸事情を慎重に検討して判断しなければならないのに、杉下課長は、原告から請求された年休について具体的に検討することなく、直ちに原告に対し、「時季変更になるからな。」と発言したものであり、杉下課長の右発言及び態度は、職員の有する年次有給休暇の権利に対して配慮を欠くものというべきであり、これに憤慨した原告の右発言が穏当を欠くとはいえ、原告の右発言だけをとらえて原告を責めるのは相当でない。杉下課長も原告の右発言について注意を与えようとしていない。
このように原告の右発言を杉下課長の右発言及び態度に照らして考えると、原告の右発言が直ちに職場の秩序を乱すものということはできないし、国家公務員法九九条の信用失墜行為や同法八二条三号の非行に該当するということはできない。
三よって、本件処分は処分事由を欠く違法なものであるから、原告の本訴請求は理由があるとして認容し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉岡浩 裁判官福士利博 裁判官土屋靖之は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官吉岡浩)